宮沢けいすけ KEISUKE MIYAZAWA
2014年1月25日
-全国初、河川敷の植栽「松の管理計画が策定」-2012年に問題となった樹齢200年の黒松の伐採のその後
(経緯) 2012年2月2日、地元の林業家から連絡が入った。内容は「樹齢200年にもなる安倍川河川敷に生えている黒松を伐採するんだが、本当にいいのだろうか。仕事にはなるが、残した方がいいのではないか」との問い合わせを受けて、翌日、現地調査に向かった。 そこにあったのは見るも無残な姿で、ヤシの木のような格好をした松が数十本生育していた。松の周囲には既にバリケードが張られており「2012年2月13日より伐採開始」と立て看板に記載してあった。ここで、この姿で伐採される松の経緯を確認するべく、国土交通省や当時の副大臣に要請し、一旦工事の中止を求めた。 樹齢200年の黒松が伐採されることとなった経緯は、平成16年、周辺住民から「松の葉が飛んできて屋根の雨樋に詰まるので切って欲しい」ということから始まった。その年、国土交通省安倍川河川事務所が周辺住宅等の屋根や側溝に溜まった松葉を処理した。 翌年の平成17年になるとそれでも「風で松葉が飛んでくる」との住民からの声に河川敷の堤防の上に生えている松の東側、住宅側の枝を全て削ぎ落としてしまった。 その翌々年の平成19年にはどうなったか。静岡は冬型の気圧配置の西高東低の際や台風あとには突風のような西風が吹く。河川敷は風を遮るものがなく、直接、松は西風の影響を受ける。西側だけの枝を残された松がどうなるか、真正面から枝葉が強烈な西風を受けると東側の後ろ盾がなくなった枝は折れ、さらに葉も飛び散るようになった。 ついには平成20年、西側の枝葉も切って欲しいとの要望に応じて西側の枝葉を伐採した結果、ヤシの木のような松が出来上がった。 平成22年、巨大な台風、15号が9月21日に静岡市に上陸、ヤシの木のようになった松は揺れ、
しなり、この松に残された枝が高所から落ち、住宅、倉庫を損傷する事故が起きたことをきっかけに国土交通省は平成23年の2月に周辺の56本の松を伐採をすることにした。 そこで、直線ではあったが私たち関係者が伐採にストップをかけた訳であった。
(何が問題であったか) 56本の松の伐採を巡り、地元住民、国土交通省河川事務所などと何度となく話し合いの場が持たれ、伐採を許可するように云われた。そのやりとりは地元のテレビ局を始め、TBS系で全国放送にもなった。この経緯に至った問題点は国土交通省の「松は勝手に生えてきたもの、管理する責任はない」の発言に現れている。 専門家に言わせれば通常、樹木の選定は上からするものであり、この場合は土木事業者が切りやすい下から枝を伐採、また被害が大きくなる風上の枝葉を残すなど素人の思いつきの対策であったこと。松の高さを抑えることで枝葉の落下の問題は軽減でき、これまで通りに防風林として、堤防の支えとしての機能が保たれたとのことであった。また、56本、一律伐採する方針についても静岡県樹木医協会の協力のもと、ガンマ線を用いて松の幹の腐り具合を調査し、残せる松は残し、適正な管理をしてゆくことを求めた。
(その後) 平成25年度、全国で初めて国土交通省河川事務所が松の保全計画を策定し、運用を始めている。日常の巡視に加えて定期的な枝の剪定や薬剤注入による松喰い虫対策などの保全作を強化。安倍川沿いにある260本のその他の松についても中長期的な管理計画の元で保全されることになった。 大変嬉しいことである。あのまま、切ってもその場しのぎであり、また近隣住民に被害を及ぼすかもしれない。そんなその場しのぎの対策では松は全てなくなっていただろう。 私の考えの根底にあるのは、人も自然の一部であるということだ。 確証はないがこの松も、江戸時代、安倍川の水脈を西に避け、駿府という市街地を形成するにあたり、薩摩藩に命じて作らせた薩摩土手の一部が今回の土手であり、水害から住民を守るために200年前に直根である松を堤防の杭として、河川が反乱して決壊した祭に切り水害を防ぐ為にご先祖が植えたものである。全て自然とともにある知恵である。 また、ここはその昔、富士山を背景に松の間を歩くシーンで水戸黄門のロケにも使われ、近くにはその後、世界遺産になった三保の松原もあり今、三保の松は県内でも最も観光客が訪れる有名スポットとなった。そんな自然が私たちの生活も助けてくれていることを忘れてはならない。
付け加えておくが、国土交通省に問題はない。問題なのはそのような制度がなかったことである。政治は制度を創り、時代に合わせて制度を変えてゆくことである。私がなぜこの仕事しているのか、それは社会の問題を作るのも、解決するも制度であり、その制度を変える必要性を感じこの仕事を続けている。時代にあった制度に変え、次の世代に胸を張って残せる社会を作るのが私の職務である。